TransformerをGNN(グラフニューラルネットワーク)の観点から考えてみる

AI・機械学習

前回の記事ではTransformerについて概要を解説しました。

今回は、このTransformerをGNNの観点からとらえてみたいと思います。

グラフニューラルネットワーク(GNN)とは

GNNは、グラフ構造データを学習するために設計されたニューラルネットワークです。グラフデータは、ノード(頂点)とエッジ(辺)で表され、例えばソーシャルネットワークや知識グラフ、化学構造などをモデル化します。GNNは、各ノードの特徴を近傍のノードやエッジを通じて集約し、ネットワーク全体の情報を効率的に学習します。

  • ノード(頂点):グラフの個々の要素(例:ユーザーや分子)。
  • エッジ(辺):ノード同士を結びつける関係やリンク。

GNNの基本的な仕組みは、各ノードの特徴量をその周囲のノードから情報を集める形で更新することにあります。このようにして、GNNはグラフ全体の構造的な関係を捉えつつ、各ノードの局所的な特徴を学習します。

TransformerとGNNの類似点

一見すると、TransformerとGNNは異なるタスクに取り組んでいるように見えますが、両者にはいくつかの共通点があります。

Self-Attention機構とグラフのメッセージパッシング

TransformerのSelf-Attention機構は、全てのトークンが他のトークンと直接情報をやり取りできる仕組みです。各単語(またはトークン)は他の全ての単語に注意を払うことができ、その関連度を学習します。このメカニズムは、ある意味でグラフの「メッセージパッシング」に似ています。メッセージパッシングでは、各ノードがその隣接ノードから情報を受け取り、それを集約して更新します。

  • Transformerでは、Self-Attention機構が全てのノード(単語)間の「エッジ」を仮想的に構築し、各トークン間の関係を捉えます。
  • GNNでは、明示的に定義されたエッジを通じて、隣接するノード間でメッセージがパッシングされます。

このように、Transformerは全てのトークンが互いに直接影響を与え合うため、完全グラフのような構造を仮定していると言えます。エッジが全て存在しているGNNとみなすことができるのです。

コンテキストの学習

GNNはグラフ内の各ノードが周囲のノードから情報を集め、そのコンテキストを学習します。同様に、TransformerはSelf-Attentionを通じて、文中の各単語が他の単語から文脈情報を集約します。このような情報の集約プロセスは、GNNのメッセージパッシングに非常に似ています。両者は、局所的な情報と全体的な構造情報を同時に捉える点で共通しています。

グローバルな依存関係のキャプチャ

TransformerはSelf-Attention機構を使って、文中のどの単語も他の単語とグローバルに依存関係を持つことができます。これは、文全体の中で重要な要素がどこにあっても、それらを適切に捉えることができるという点で非常に強力です。GNNもまた、ノード間の関係を通じてグローバルな依存関係を学習することが可能です。特に、複数のメッセージパッシング層を使うことで、GNNは遠く離れたノード間の関係を捉えられます。

TransformerがGNNとして考えられる理由

TransformerをGNNの一種と捉えることができる根拠は、Self-Attention機構によって文中の全てのトークン(ノード)が他の全てのトークンと結びつく「完全グラフ」のような構造を暗に持っている点です。この点で、Transformerはグラフ全体の関係性を学習するGNNと機能的に類似しています。

  • 完全グラフの仮定:Transformerは、全てのノード(単語)が他の全てのノードとエッジを持つ完全グラフに相当します。Self-Attentionにより、各トークン間の相互関係を捉えることができ、情報が全トークン間で自由に伝達されます。
  • メッセージの集約:Transformerでは、Self-Attentionに基づいて各トークンが他のトークンから「メッセージ」を集約し、学習を行います。この集約プロセスは、GNNのメッセージパッシングと類似しています。

異なる点

TransformerとGNNは多くの共通点を持つ一方で、いくつかの重要な違いもあります。

  • グラフ構造の明示性:GNNは明示的なグラフ構造(ノードとエッジ)に基づいていますが、TransformerはSelf-Attentionによって仮想的に全てのトークンが結びつく構造を持っています。GNNでは、エッジの有無や重みを手動で定義することが多く、Transformerの完全グラフ仮定とは異なる点です。
  • 計算効率:Transformerは完全グラフのように全てのノード間の関係を計算するため、計算量が高くなります。GNNは、隣接ノード間の情報伝達に限定されるため、効率的に計算できることが多いです。

まとめ

TransformerとGNNは、一見異なるアーキテクチャに見えるものの、Self-Attention機構がグラフのメッセージパッシングに類似していることから、Transformerを「完全グラフを扱う特殊なGNN」と捉えることができます。特に、自然言語処理タスクで全体的な文脈理解やグローバルな依存関係の学習が必要な場合、Transformerはその能力を発揮し、GNNと共通の原理で動作していることが分かります。

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