【証券分析9-1】株価はなぜ期待リターンがプラスになるのか

ファイナンス理論

以前の記事る理由として、経済が成長すると企業の利益が増加するので、その積み重ねである株も上昇するから株式投資を行った方がいいといった内容の記事を紹介しました。
確かに株価が上がる理由として経済成長は1つの重要な要素になりますが、実はそれだけが株価が上昇する理由ではありません。
今回はもう一つの重要な要素である投資家が要求する収益率について考えることで、株価が上昇する理由について考えたいと思います。

理論的な株価

これまでの数回の記事で経済学的に理論株価がどのように決定されるのか、理論的な株式価値の導出方法を見てきました。
具体的には、配当割引モデルや割引キャッシュフローモデル、残余利益モデルなどが該当します。
ここでは最も単純に考えるとして、配当割引モデルをベースにすると、企業の純利益が毎期gずつ成長しその益が全て配当されると考えた場合、株式価値はrを株主が要求す、株式価値はrを要求する収益率として


と表せます。
株主が要求する収益率が大きいほど、現在の株式価値は小さくなり、成長率が大きいほど、株式価値は大きくなります。

1年間の収益率を考えてみる

ではこの数式を用いた場合、1年間のリターンはどのように表されるでしょうか。
株主の要求収益率の定義から考えると、1年間のリターンはrになるはずです。
これを、モデルをベースに正しいのか確認してみましょう。

企業利益は全て配当されると考えるので、1期目の企業利益を$E$とすると、
現在の株価


と表せます。
株主が要求する収益率が大きいほど、現在の株式価値は小さくなり、成長率が大きいほど、株式価値は大きくなります。

1年間の収益率を考えてみる

ではこの数式を用いた場合、1年間のリターンはどのように表されるでしょうか。
企業利益は全て配当されると考えるので、1期目の企業利益を$E$とすると、
現在の株価


1年後の株価(1年後には利益が成長していることに注意してください)


と表すこと)$$\frac{E(1+g)}{rg}ができます。すこ合。この期間には$E$だけのE $のみ配当が生じるので、1年間のリターンは

子の中の項を整理します。
分子の式を分けて考えると、次のようになります

子の括弧の中を展開すると:

これを分母で割りり分けます



となり

になります。

このように株主の要求する収益率と1年間のリターンは等しいことが分かります。
つまり、株価が上がるかどうかを考える上ではこのrがどのくらいになるのか考える必要があるのです。

株主の要求収益率とは何か?

ここで改めて株主の要求収益率とはどういうものなのか考えてみます。
株主が資金提供するのは、その見返りが得られるからです。どのくらいの見返りを求めるかというのを示しているのがこの要求収益率になります。
壁に投資をする場合には、ある程度リスクが存在し、投資したお金が戻ってこないことがありえます。ですので株主は、リスクのない運用資産のリターン(いわゆるリスクフリーレート)よりも高いリターンを要求します。ですが、どのくらいリスクフリーレートよりも大きなリターンを要求するのかという部分に関しては自明ではありません。
この要求収益率を具体的に求める方法は、これだというものが存在するわけではありません。
よく用いられるのは、CAPMを前提としてβから求める方法になります。


という式から求めます。ここで、$r_{f} $はリスクフリーレート、$r_{m}$は市場リターンとします。
これはβが高い株ほど株主の要求する収益率は高いということです。

経済成長と要求収益率の関係?

以前の記事では経済が成長すれば株が上昇するといったような話をしましたが、この点について要求収益率との関係を考えてみます。
今回の議論の出発点として考えている株式価値の数式に着目すると、そもそも株主の要求収益率にはある家庭が暗黙に存在していると読み取れます。
それは


を前提に考えているということです。
もし、要求収益率の方が成長率よりも小さい場合、現在の株価はマイナスになってしまいます。現実的に株価がマイナスになることはないので、この配当割引モデルをベースとした株価モデルでは、要求収益率は成長率よりも大きいと仮定しているとわかります。
この仮定をベースとするならば、経済成長を全ての企業の平均的な成長と考えると、平均的な要求収益率は、経済成長率よりも大きいということになります。
株主の要求収益率は、経済成長も踏まえて決まる値なので、経済が成長すれば株価も上昇するという考え方はある程度整合的であると思われます。

まとめ

今回は、株価がなぜ上昇するのか、あらためて考えてみました。
株式価値モデルをベースに考えたので、経済成長のみで考えるよりも理論的に考えることができた気がしますが、代わりに株主の要求収益率はどう決まるのかという新たな問題に直面しました。
次回は、この株主の要求収益率についてもう少し考えてみたいと思います。

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