【証券分析8-3】企業の負債比率は株価に影響するか?

ファイナンス理論

ここまでの2回では配当や自社株買いが株価に影響するのか見てきました。
今回は企業の負債比率が株価に影響するのか考えていきたいと思います。
少し難しい言い方をすると、企業の資本構成(資金調達方法)が株価に与える影響を考えるということになります。
資本構成というのはどのくらい負債で調達するか、株式で調達するのかといったことを示します。

完全市場では企業の資本構成は株価に影響しない

初めに結論を述べてしまうと、これまで何度か出てきた完全市場においては企業の資本構成に株価は影響を受けません。つまり、全て負債で調達しようと株式で調達しようと関係ないということを示しています。
これをMMの第一命題と言います。
この命題についてはこれまでにも取り上げてきましたが、まず完全市場の仮定として、取引コストや税金情報の非対称性が存在しない効率的な市場を考えます。
このような市場において、全ての資金を株式で調達している負債のない企業A 社と、資金の一部を塞いで調達している b 社を考えます。
この2つの企業は全く同じ事業を行っているので、予営業利益はXで等しいと考えます。
このとき、A社の株式をY%購入すると、その収益は
と表せます。
B社の株式をY%、社債をY%購入すると、その収益は負債利子率を$r$として、


となり、両者は等しくなります。
ここで、もし、A社の企業価値の方が、B社より大きいとします。その場合、1年後には同じ利益を得られる=1年後には同じ企業価値になるのに、A社の方が高いので、割高であり、A社をY%売って、B社の社債と株式をY%購入できます。
その場合、1年後には同じ企業価値になるため、現在の企業価値の差分が無条件で得られる取引ができることになります。このような取引を無裁定取引といいますが、効率的な市場においては、無裁定取引は成立しないと考えられます。(そのような取引が可能なら、みんなが取引して、結局は適正な価格に収束するため)
したがって、A社とB社の企業価値は等しくなり、これは、企業の資金調達方法が株価に影響しないことを意味します。

税金が存在する場合

税金が存在する場合には、少し話が変わってきます。
税金は利益から負債の利子支払いである支払い利息を引いた金額に対して、税率がかかります。
一方で、株主への還元(例えば配当)は利益から税金を引いた後に分配されるので、利益全額に税金がかかります。
このように、負債を利用することで、節税ができるので、その分だけ、企業価値を向上させることができるというのが、MMの修正第1命題になります。
節税は、税率$T$,負債利子率$r$, 負債額$D$とした場合、毎期$rTD$だけ発生するので、この割引現在価値は、


となります。
つまり、負債を行う企業の企業価値は、税率に負債額をかけた額だけ、全額株式調達の場合よりも高くなります。

全額負債調達すればいいのか?

先ほどの税金のある場合を考えると、全額負債で調達すれば最も企業価値が高くなるように思えます。しかし、実際には、負債の比率が高まるとそれに応じて、倒産するリスクが高まります。
倒産するリスクが高まるとそれだけ高い利子率でないとなかなか人はお金を貸さないので、社債の調達コストは上昇します。そのほかにも倒産に関連する費用が増加する分をまとめて、倒産コストと読んだりします。このような倒産コストの存在を考えると、100%負債での調達は最適ではなくなります。
最適な資本構成は、負債の利用による節税効果と、倒産コストのバランスが最もとれて、企業価値が最大になる負債比率ということになります。
理論的にその数値を導くことはできませんが、現実世界においては、多くの企業がほどほどに負債を利用しているのはこういった背景があると考えると納得できるのではないでしょうか。

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