【証券分析7-5】残余利益モデルとは

ファイナンス理論

前回までは株式価値評価の手法として配当割引モデルや割引キャッシュフローモデルを見てきました。今回はこれらの手法と同様に用いられる残余利益モデルについて説明していきます。

残余利益モデルとは?

残余利益モデル(Residual Income Model, RIM)は、一言で言うと、企業が通常の利益率を上回る利益をどれだけ生み出すかを評価することに重点を置いています。

残余利益モデルの基本原理

残余利益モデルの基本的な使い方は以下のようになります。

  1. 残余利益(Residual Income, RI)の計算:
    残余利益は、企業が創出する実際の利益(純利益)から株主が求める期待利益を差し引いたものです。具体的には、次の式で表されます:


    ここで、株主資本コストは企業の資金調達コストの一つであり、通常は株主が求める要求収益率として定義されます。

  2. 企業価値の計算
    残余利益モデルにおいて、企業の価値は将来の残余利益を現在価値に割り引いた合計に企業の期首の株主資本を加えたものとして計算されます。つまり、


    ここで、は将来の残余利益、は割引率です。

残余利益モデルの導出方法

クリーンサ―プラス関係

では残余利益モデル場どのように理論的に糖質されるモデルなのでしょうか?
そのためにはクリーンサープラス関係というものを考える必要があります。
クリーンサープラス関係とは純資産の増減額はその期間の損益に等しいという関係になります。分かりやすいようにあなたのお財布を例にして考えてみます。
例えば5月末時点にお財布に残っている金額から4月末時点のお財布に残っていた金額を引いた金額は4月から5月の1ヶ月間の収入から支出を引いた金額に等しいということです。
こう考えると非常に当たり前のことであることが理解できると思います。
単にこの関係を難しくクリーンサープラス関係と名付けているにすぎないのです。
これを実際の企業の例で考えてみると、
前期末の株主資本にその期間の純利益から株主に支払う配当を引いた金額を加えたものが期末の株主資本と一致します。

これを数式で表すと

ここで、
= t期の1株当たり株主資本
= 親会社株主に帰属する1株当たり当期純利益
= 1株当たり配当
とします

クリーンサープラス関係の配当割引モデルへの展開

先ほどのクリーンサープラス関係を用いて配当割引モデルを展開します。

まず、変形して配当 を次のように表します

次に、株主の要求収益率を として、2式の右辺に を加えると、以下のように変形できます:



この式を配当割引モデルの一般式に代入すると、理論株価 は次のように展開できます:





この式はさらに次のように展開できます



ここで、 と考えると、次の式が得られます

この式で、 は期首の株主資本 に株主の要求収益率 を掛けたものであり、株主が資本を提供する見返りとして要求する利益を表します。したがって、 は t期に実際に創出された利益から株主の必要利益を引いたもので、これが残余利益(Residual Income)になります。

残余利益モデルの利点

残余利益モデルにはいくつかの利点がありますが、それを見る前に、配当割引モデルと割引キャッシュフロー法の問題点について少し整理をしておきましょう。

配当割引モデルの問題点

これはすでに別の記事でも触れたことがありますが、企業は利益の全てを配当するとは限らず、配当を全く行わない企業も存在するため、全ての企業の価値を同列に評価するのが難しい点にあります。

割引キャッシュフロー法の問題点

次に割引キャッシュフロー法の問題点を考えてみます。
割引キャッシュフロー法の問題点としては、キャッシュフローがマイナスになるケースが考えられることです。
特に成長期にある企業では一般的に新規の設備投資を盛んに行うため、利益よりも投資の方が多くなりキャッシュフローがマイナスになることがしばしば発生します。
しかし、このような企業は将来の遠い時期においてキャッシュフローが大きくプラスになることが予想されます。
したがって、そのような長い将来まで見据えたキャッシュフローを予測することができれば、正しい現在価値を求めることができますが、予測する時点が遠くなれば遠くなるほど予測の精度は下がってしまいます。
実際には、将来5年程度のキャッシュフローを予測して、それ以降は5年後のキャッシュフローが続くといったような仮定を置くので、うまく考慮できないケースも多くあります。

問題点と残余利益モデル

ここまでを整理すると、
1. 配当が0であったりキャッシュフローがマイナスとなる場合にモデルの適用が難しい
2. モデルの利用に必要となる将来のデータに対する予測が難しい
といった問題点が挙げられます。

残余利益モデルではこの問題が緩和されています。
残余利益モデルモデルは利益がマイナスの場合でも適用可能なモデルになっています。
続いて、モデルが必要とする変数の予測難易度に関してもキャッシュフローに比べて利益は比較的変動が小さいため予測の信頼性は高まる傾向にあります。

残余利益モデルのまとめ

残余利益モデルを用いると、企業の理論株価は次のように整理されます:

  1. 株式価値の算定式

  2. 残余利益の算定式

これにより、株式価値は株主資本に毎期の残余利益の現在価値を加えたものとして計算されます。

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