【証券分析7-3】フリーキャッシュフローモデル(FCFE)とは

ファイナンス理論

理論株価を評価する手法はいくつか存在していますが、前回は配当割引モデルを見てみました。
しかし、実際には、配当を行っていない企業も存在します。配当割引モデルではそのような企業の理論株価を求めることはできません。そのようなケースでも使える方法である、キャッシュフローを用いた理論株価の算出方法を今回は紹介していきたいと思います。

2つのフリーキャッシュフローモデル(割引キャッシュフローモデル)

フリーキャッシュモデルには、FCFEと呼ばれる方法とFCFFと呼ばれる方法の2種類が存在します。ややこしいですが、全社が、株主に対するキャッシュフローに着目する(Free Cash Flow to Equity)のに対して。後者は企業全体のキャッシュフローに着目して(Free Cash Flow to Firm)、理論株価を評価するモデルです。
フリーキャッシュフロー(FCF)は、企業が事業運営や投資に必要なお金を差し引いた後に残るキャッシュフローを示しまずが、株主にとってなのか、企業全体にとってなのかによって、若干フリーキャッシュフローの定義が異なってきます。
今回は、まず、株主に着目したFCFEについて見ていきます。そして、次回は、FCFEについて見ていきます。

FCFEモデルとは?

FCFEは、株主が受け取ることができるキャッシュフローであるフリーキャッシュフローに着目して株式の理論価格を算出する方法です。これにより、配当を支払わない企業や成長企業の株価を評価することが可能になります。
フリーキャッシュフローには2種類あると説明しましたが、今回は株主に帰属するフリーキャッシュフローというものを考えます。
これを株主に配当として還元することが考えられますが、全額を配当しない場合もあります。その場合、残りのキャッシュフローは企業の成長や新規投資に利用されます。したがって、配当を行わない場合もこのフリーキャッシュフローは発生するので、これを使えば配当しない企業も理論株価が求められるということになるのです。

FCFEの計算式

企業のフリーキャッシュフロー(FCF)から、負債の増減や資本支出を調整したものが株主に帰属するキャッシュフロー(FCFE)です。以下がその計算式です:

ここで、各項の意味を簡単に説明します:

  • 当期純利益: 企業が一定期間で稼いだ利益の純額。
  • 減価償却費: 資産の減価償却費用。これは利益計算には含まれるが、実際には現金が支出されないので、キャッシュフロー計算上では加算されます。
  • 設備投資額: 新しい設備や資本支出にかかるコスト。これは実際に現金が支出されるため、キャッシュフロー計算では減算されます。
  • 正味運転資本増加額: 企業が事業運営に必要な現金資産と負債の変動額の差。これも実際の現金の動きを反映し、減算対象となります。
  • 負債増加額: 企業が借入して増えた負債の額。これが正味キャッシュフローに影響します。

FCFE割引モデル

FCFE割引モデルは、将来のFCFEを株主の要求収益率(割引率)で割り引いて現在価値を求める手法です。これにより、企業が将来にわたって株主に提供できる価値を評価します。
前回の配当割引モデルは配当を株主の要求収益率で割り引いていましたが、今回は、より広義の意味で配当と同じ役割を示すFCFEを割り引きます。
具体的な計算式は以下の通りです:

ここで、 は現在の株式価値、 は将来の期間 におけるFCFE、 は株主の要求収益率です。

具体例を用いたFCFE割引モデルの理解

例として、企業A社が毎年のFCFEを計算し、その株主の要求収益率が12%である場合を考えます。

企業AのFCFEの計算

  • 当期純利益: 40億円
  • 減価償却費: 10億円
  • 設備投資額: 25億円
  • 正味運転資本増加額: 5億円
  • 負債増加額: 15億円

これらの情報を使って、C社のFCFEを計算します:



したがって、C社の毎年のFCFEは35億円となります。

FCFE割引モデルによる株式価値の計算

次に、C社の株式価値をFCFE割引モデルを用いて計算します。株主の要求収益率が12%であると仮定します。

ここで、 は最初の年のFCFEであり、35億円とします。要求収益率 が12%(0.12)であるため、計算を行うと



この式は無限等比級数の公式を用いて、FCFE割引モデルによる企業の株式価値 を具体的に計算するものです。無限等比級数の公式は以下の通りです:

無限等比級数の公式を使って、

したがって、企業A社の株式価値 は約326.67億円となります。

配当割引モデルとの関連性

配当割引モデルとFCFE割引モデルは、株主が受け取るキャッシュフロー(配当またはFCFE)を基に企業の株式価値を評価する点で類似していますが、異なる点もあります。

  • 共通点: 両モデルは、株主の要求収益率を使用して将来のキャッシュフローの現在価値を算出します。これにより、理論価格を見積もることができます。

  • 違い: 配当割引モデルは、企業が配当として直接株主に支払う予定のキャッシュフローを基に価値を算出します。一方、FCFE割引モデルは、企業が自由に使用できるキャッシュフローを株主に還元する可能性を考慮し、その価値を見積もりますので、配当よりも考慮できる範囲が広くなります。

企業が成長する場合や配当政策が異なる場合、FCFE割引モデルが適しています。例えば、C社が将来の成長に投資するために一部のFCFEを再投資する場合、その成長を反映した株式の価値を評価することができます。

まとめ

FCFE割引モデルは、企業の成長や配当政策によって異なるキャッシュフローを考慮し、株主の要求収益率を基に株式の理論価格を算出する方法です。配当割引モデルに比べて、対象範囲が広いので、キャッシュフローがある程度わかる場合には有効な方法です。

タイトルとURLをコピーしました