以前の記事ではCAPMについて紹介し、併せて、インデックス投資がCAPMに基づくと最適とされる理由についても確認しました。
しかし、このCAPMというのは、かなり様々な前提条件を仮定した場合に成立する理論です。
そこで、今回は、CAPMが実際に成立しているのか検証してみたいと思います。
CAPMの仮定
CAPMが成立するためには、いくつかの仮定が使われています。
1. 投資家はリスク回避的であり、資産のリターンの平均と標準偏差に基づいて、合理的にポートフォリオを選択する(平均分散アプローチに基づいて、期待効用を最大化させるための戦略を取る)
2. 市場は完全であり、多くの投資家が存在し、投資行動は資産価格に影響を与えない
3. 資産のリターン分布は正規分布に従うまたは、2パラメータの対称安定の分布に基づく
このような状態の仮定の上では、均衡リターンは、
証券iの期待リターン$E[r_{i}]$
リスクフリーレート(無リスク資産のリターン)を$r_{f}$として、
と表されるというのがCAPMの主張です。
CAPMが示唆すること
このCAPMの数式は、もう少しかみ砕くとどういったことを主張しているのかというと以下になります。
1. 資産のリターンとリスクは線形関係にある。→ハイリターンハイリターンもしくは、ローリスクローリターンであり、ハイリターンローリスクは存在しない。
2. 各資産のリターンは、ベータ(マーケットポートフォリオに対する感応度)によってのみ左右される。
つまり、資産のリターンは、その資産ごとに定まったベータの値によって決定されるもので、そのほかにリスク要因は存在しないと考えるのがCAPMになります。
そのため、CAPMが成立すると仮定するのであれば、アクティブ投資は必要なく、インデックス投資をしておけばいいということになります。
CAPMは成立しているのか?
ここで問題となってくるのが、本当にCAPMは成立しているのかという観点になります。
この問題に対する分析や検証は1970年代後半ごろから行われています。
有名なものにFamaMacbeth回帰やブラック–ジェンセン–ショールズの方法などがあります。
FamaMacbeth回帰については別の記事で詳しく紹介しています。
FamaMacbeth回帰の検証では、一部はCAPMの成立を肯定するような結果が得られましたが、ブラック–ジェンセン–ショールズの方法ではあまりよい結果は得られていません。
その他にも、米国株式データを用いて、時価総額10分位ポートフォリオを作成した場合、時価総額加重平均ポートフォリオは効率的フロンティアのかなり内側に位置しているといったような結果もあります。
CAPMが成立していない状態であるアノマリーに関する研究が盛んになりました。
代表的なアノマリー
それでは、実際、どのようなアノマリーが存在しているのか、代表的なものを見てみます。
小型株効果
時価総額の小さい株式は大きい株式に比べてリターンが高い
バリュー効果
PERやPBRの低い割安とされる株式は高い株式に比べてリターンが高い
モメンタム効果
直近リターンの高かった株式は、低かった株式に比べてリターンが高い
他にも様々なアノマリーが発見されています。このように、CAPMが成立していると仮定した場合では、確認できないはずのことが発生しています。
なぜこのようなアノマリーが発生するのかについて、リスクプレミアム仮説や行動経済学に基づく理論など様々な議論があります。
CAPMのその先へ
CAPMは証券市場を理解する上で非常に重要な結論を示していますが、実際のデータではCAPMで説明されない現象が起きるなど、理論と現実にはやや乖離がありました。
その乖離を少しでも埋めるために提案されたモデルとして、現在でもよく用いられるのがマルチファクターモデルです。
詳細は別の記事で紹介しますが、マルチファクターモデルは、CAPMがリスク要因としてとらえているベータ以外にもリスク要因が存在するとして、モデル化を行います。
イメージとしては、各株式のリスクをベータ要因とそうでない個別銘柄要因に分解したとき、個別銘柄の要因が各銘柄ごとに完全に独立であれば、ベータのみでリスクは決まりますが、現実的にはそうならないということです。例えば、同じ業種の銘柄は似たような株価変動をすると考えられます。このように、ベータ以外のリスク要因も組み込もうとするのが、マルチファクターモデルです。