ポートフォリオのパフォーマンスを評価する上では、リスクやリターン、リスク調整後のリターンなどを見ることが必要であることを確認してきました。より詳しくパフォーマンスを評価するためには、どのような要因で+のリターンが得られたのかマイナスのリターンが得られたのかといったことを分析することも有効になります。そこで今回はパフォーマンスの病院分析の方法について見ていきたいと思います。
代表的な要因分析の方法
要員分析の方法には分析手法やその対象によっていくつかの種類が存在しています。
最も単純な要因分析は、ポートフォリオの個別銘柄単位でどの程度のリターンが得られたのか分析することです。あるいは、マルチアセットの場合は、各資産ごとにどのくらいのリターンが得られたのか分析することができます。しかし、分析対象の銘柄数が非常に多くなってくると、どのような要因が重要だったのかということを理解するのは難しくなります。そこでよく用いられる方法は、プリンソン型と呼ばれる要因分析と、ファクターに基づく要因分析の2つになります。そこで、今回はこの2つの手法について見ていきたいと思います。
ブリンソン型の要因分析
ブリンソン型の要因分析(Brinson Model)は、主にアクティブ運用のパフォーマンス評価に使用されます。この手法は、ポートフォリオの超過リターン(アクティブリターン)がどのように生成されたかを特定の要因に分解します。具体的には、アロケーション効果、セレクション効果、そして複合効果の3つの要因に分けて評価します。
アロケーション効果 (資産配分効果)
アロケーション効果は、ポートフォリオの各セクターやアセットクラスに対するウェイト(配分)の違いによる影響を測定します。これは、ポートフォリオがベンチマークに対してどのように異なる配分を持っているかを示し、その配分の違いがリターンにどのように寄与したかを評価します。
セレクション効果 (銘柄選択効果)
セレクション効果は、各セクターやアセットクラス内での銘柄選択の影響を測定します。これは、ポートフォリオ内の銘柄選択がどの程度優れているかを示します。
複合効果 (Interaction Effect)
複合効果は、アロケーションとセレクションの相互作用の影響を測定します。
これを図でイメージすると次のようになります。
具体例
例えば、ポートフォリオが3つのセクター(A、B、C)に分散されているとします。それぞれのセクターのポートフォリオのウェイト、ベンチマークのウェイト、ポートフォリオのリターン、ベンチマークのリターンが以下のようであった場合を考えます。
セクター | ポートフォリオのウェイト (%) | ベンチマークのウェイト (%) | ポートフォリオのリターン (%) | ベンチマークのリターン (%) |
---|---|---|---|---|
A | 40 | 30 | 12 | 10 |
B | 30 | 40 | 8 | 6 |
C | 30 | 30 | 10 | 9 |
アロケーション効果、セレクション効果、複合効果をそれぞれ計算すると:
-
アロケーション効果:
となり、アロケーション効果は0.4%となります。 -
セレクション効果:
となり、セレクション効果は1.7%になります。 -
複合効果:
総合的なポートフォリオの超過リターン(アクティブリターン)はこれらの効果の合計となります
の2.1%が超過リターンになります。
これは、ポートフォリオとベンチマークのリターンをそれぞれ計算した差分と一致します。
ポートフォリオのリターン
ベンチマークのリターン
超過リターン
ファクターに基づく要因分析
続いて、ファクターに基づく要因分析の方法について見ていきます。
ファクター分析は、ポートフォリオのリターンが特定のファクター(例:市場リターン、サイズ、バリュー、モメンタムなど)にどの程度依存しているかを分析します。この手法は、ファクターモデルを用いてポートフォリオのリターンを分解し、各ファクターがリターンに与える影響を評価します。
代表的なファクターモデル
ここでファクターモデルについて簡単に見ておくと、よく使われるモデルには以下のようなモデルがあります。
1. CAPM(キャピタル・アセット・プライシング・モデル): 市場リターンとの関係を分析。ファクターは市場リターンのみ。最も基礎的かつシンプルなモデル
-
ファーマ=フレンチ3ファクターモデル: 市場リターン、サイズ(SMB: Small Minus Big)、バリュー(HML: High Minus Low)を考慮
-
キャロハート4ファクターモデル: モメンタム(MOM)も追加
などが有名です。
その他、実務的には(機関投資家では)Barraモデルと呼ばれるモデルが一般的に良く用いられます。
ファクターモデルを用いる場合のパフォーマンス要因
単純にどのファクターがどの程度影響しているかを分析する場合もありますが、多くの場合は、以下の図ような要因に分解することが多いです。
トータルリターンをまずは、ベンチマーク部分とそれ以外に分けます。ベンチマーク部分は多くの場合市場リターン部分と捉えることができます。
アクティブリターンはさらにファクターリターンと固有リターンに分解できます。ファクターリターンはファクターで説明できる部分、固有リターンは説明できない残差部分になります。
ファクターリターンはさらに、バリューやモメンタムといったスタイルファクターによる部分と、自動車、医療などの業種によるリターンに分解することもあります。
具体例
ファクターモデルの要因分析についても、4ファクターのモデルでのイメージを具体例で確認してみます。
ポートフォリオのリターンが次のように与えられているとします
市場リターン($R_m$)が5%、SMBが1%、HMLが2%、MOMが3%であった場合、各ファクターがポートフォリオリターンに与える寄与は:
ポートフォリオのリターンは次のようになります
このように、ファクター分析を用いることで、ポートフォリオのリターンがどのファクターに依存しているのかを明確にし、リスク調整後のリターンを評価することが可能となります。
それぞれの手法のメリットデメリット
ブリンソン型の要因分析は、セクターのウェイトとリターンがわかれば分析できるので、かなり少ないデータ#データサイエンス手軽に分析が行えます。
一方で、分解できる要因はセクター要因と銘柄選択効果のみになるので、銘柄選択効果については、純粋な銘柄選択効果以外にもセクター配分以外の要因がすべて含まれてしまうというデメリットがあります。
ファクター要因分析は、より細かい要因に分解することが可能になります。しかし、分析においては、ポートフォリオのファクター特性値(ファクターの感応度、ファクターエクスポージャー)が必要となるため、データの入手が困難な場合も多くあります。ポートフォリオがあまり変化しない場合は、過去リターンの回帰によって、得られたファクターエクスポージャーを用いることができますが、リバランスを行う場合には、構成銘柄のファクターエクスポージャーのデータが必要となります。
ファクターエクスポージャーの求め方については、以前の記事で紹介しているので、そちらも併せて参考にしてください。