今回はこれまで3回にわたって見てきた投資信託の乗り換え問題に対する最後の記事になります。
前回までに確認したパターンとしては、
– 非課税口座で運用する場合
– 課税口座で運用する場合
– 非課税口座から課税口座に乗り換えて運用する場合
の3つになります。
今回は最後のパターンである、課税口座から非課税口座に乗り換える場合、について考えていきます。
ここで最初にこの問題に対する結論を述べてしまうと、現在課税口座で保有している投資信託よりもよりコストの低い投資信託が、非課税口座で購入できる場合、全ての条件において乗り換えを行った方が、良いことになります。
これまでの3回は、どのような想定を置くかによって、この問題の答えは変わってきましたが、今回のパターンにおいては、必ず乗り換えを行った方が良いことになります。
なぜそのようになるのか順を追って考えていきたいと思います。
基本的な前提条件と具体例
まずはこれまで同様に基本的な問題設定を考えます。前提条件はこれまでのパターンと変わりません。
- : 初期投資額
- : 追加投資額
- : 年利率
- : コスト1
- : コスト2
- : 投資期間(年)
- : 税率
-
乗り換えを行わない場合の金額 ():
課税口座で引き続き運用する場合を考えます。
現時点では税金は発生せず最終的に運用が終了した時点で税金が発生します。
-
乗り換えを行う場合の金額 ():
非課税口座に乗り換えを行うので最初に税金が発生しますが、その後は税金が発生しません。
計算結果として、乗り換えを行わない場合の金額 () と、行う場合の金額 () を比較すると、Pythonでは以下のように書けます。
s = 100 #投資元本
x = 10 #現在の運用益
r = 0.03 #今後の期待収益率
c1 = 0.1/100 #コスト1 0.1%
c2 = 0.05/100 #コスト2 0.05%
t = 20 #運用期間
tax = 0.2 #課税率
#課税口座から非課税口座への乗り換え検討
s_t1 = ((s+x)*(1+r-c1)**t) - (((s+x)*(1+r-c1)**t)-s)*tax
s_t2 = (s+(1-tax)*x)*(1+r-c2)**t
print(s_t1)
print(s_t2)
投資元本 に対して、現在の運用益 を考慮し、今後の期待収益率 に基づいて運用を行うという設定を考えます。コスト1は 0.1% ()、コスト2は 0.05% () です。運用期間は 20 年 で、運用益に対する課税率は 20% () です。
この条件において実行すると、
-
乗り換えを行わない場合の金額:
-
乗り換えを行う場合の金額:
したがって、乗り換えを行う方が圧倒的に有利であることが分かります。
運用期間を変化させた場合
まずは、これまでと同様に、運用期間が変わると乗り換えに対しての意思決定が変わるか見ていきます。
グラフは先ほどの設定で 運用期間 t を変化させた場合の乗り換えを行わなかった場合の資産から乗り換えを行った場合の資産の額を引いたグラフを示しています。
このグラフからわかるように、最初から乗り換えを行う方が、有利であることがわかります。
すべての条件で乗り換えを行うべき理由
最初に結論として、全ての条件において乗り換えを行った方が有利であると述べました。
ここではその理由について考えていきたいと思います。
少なくとも先ほどの例で見たように、現在の各変数の設定においては乗り換えを行った方が常に有利であることが分かりました。
では他の条件を変更した場合にも乗り換えを行った方が良いのでしょうか?
それを考えるためには次のような数式を考える必要があります。
式 を示す必要があります。
乗り換えを行わなかった場合の最終的な資金額から乗り換えを行った場合の最終的な資金額を引いた金額が常に0より小さい場合、必ず乗り換えを行うべきということになります。
ただ単純に変形が面倒なだけですが、この証明を行っていきます。
まず、式を整理してみましょう。
それぞれの項を展開します。
これらを代入して再整理します。
これをさらに簡単にすると、
ここで、 の項をまとめ、 の項をまとめ、 の項をまとめると、
ここで、 を比較するために、どちらの項が大きいかを考えます。
一般に、税率は1より小さいので であり、 であり、
かつ$r>0, t>0$で、 になるので、
このことから、
したがって、最初の式
が成り立つことが示されました。
最後の
の部分に注目すると、この事実を少しイメージとして捉えやすくなるかと思います。
どのくらいの運用益に対して税金がかかるかという部分を単純化して示しています。
収益がプラスであるならば、複利効果で収益が出て運用益が大きくなってから税金がかかるよりも、複利効果で大きくなる前にまず税金を支払ってしまって、それから複利効果で資金を大きくした方が税金が少なくて済むということです。
ただし、ここでの注意点としては、今回のシミュレーションにおいては大収益率が常に一定でかつゼロよりも大きい事象についてのみ考えているということです。実際の運用においては毎年の収益というのは変動し、マイナスのリターンになることも存在します。この点が今回行っているシミュレーションとは異なる部分になりますので、注意が必要です。
まとめ
今回は、課税口座での運用から非課税口座での運用に乗り換えるパターンについて考えてみました。
この場合は基本的にどのような条件を適用するとしても、必ず乗り換えを行った方が有利になることを数式の式変形を用いて考えていきました。
よりイメージしやすいように考えると、今後同じだけの収益が得られるなら、複利効果で金額が大きくなってから税金を支払うよりも、最初に税金を支払ってしまって複利効果の部分には税金がかからないようにするのが合理的ということになります。
ただし、今回は常に収益率rがプラスになることを前提としていることに注意してください。
ここまで4回にわたって、投資信託の乗り換え問題について考えてきました。想定する条件によって、乗り換えを行うべきかの意思決定は変わってきますので、実際に各変数の想定を決めて、2つのパターンの運用後の総額をシミュレーションすることで、簡易的ではありますが、意思決定の材料とすることができます。
全4回で扱ったコードについては、こちらのGoogleColabで確認できます。