自家製インデックス運用は可能か?

投資・ファイナンス

最近はインデックスファンドを中心としたパッシブ運用が注目されています。
できるだけコストを抑えたいと考える場合、インデックスファンドと同じリターンを、自分自身で作成し再現できないかということが考えられます。もしこれが可能であれば売買コストと売買の手間はかかりますが、信託報酬が不要になります。もちろんアクティブファンドに比べるとインデックスファンドの信託報酬は、非常に少額であるので、わざわざ自分でやる手間を考えると、投資信託や ETF を利用した方がいいという結論になる可能性も高いです。
今回は、パッシブ運用の3つの手法を紹介し、個人でもインデックス運用ができるのか考えていきたいと思います。

パッシブ運用手法① 完全法

パッシブ運用の最もシンプルな運用手法として、完全法があります。これは文字通り、指数構成銘柄のすべての銘柄を構成比率通りに持つことで、インデックスと同じリターンを追求するという手法になります。
例えばTOPIXのような時価総額加重の指数に連動する戦略の場合は、TOPIXの全銘柄を時価総額ウェイトで持てば良いことになります。非常にシンプルで、かつ、実際のインデックスとほぼ同じリターンが得られやすい手法になります。しかし、この手法を実現するためには大規模な資金が必要となります。資金が小規模しかない場合、最小売買単位の影響で、実際の時価総額加重で持つことが難しくなるからです。
この手法は、多くの投資家から資金を集め大規模な資金でパッシブ運用を行うインデックスファンドにとっては好ましいやり方になりますが、一般の個人投資家が実行するのはかなり難しい手法になります。

パッシブ手法② 層化抽出法

続いてのパッシブ運用の手法は、層化抽出法になります。
この方法は先ほど紹介した完全法よりも、より少ない銘柄数でベンチマークとなるインデックスファンドと同じリターンを再現するための手法になります。
完全法の場合、指数構成銘柄の全銘柄を保有する必要があります。
しかし、それらの銘柄の中には比較的リターンの傾向が似通った株も多く存在します。この特徴を生かして、似たようなリターンを出す銘柄群の中から代表的な銘柄を取り出して、ポートフォリオを構築するのが、層化抽出法になります。
例えば、サイズについて考えると、大型銘柄と小型銘柄ではリターンの出方が異なると考えられます。そこで時価総額の大きさに基づいて、10個のグループに分割しそれぞれのグループから1銘柄ずつ取り出すといったようなイメージになります。
サイズについての分割以外にも、バリエーションやベータなど様々なリスク特性に応じて、グルーピングを行い、代表的な銘柄を抽出するといったことができます。
グルーピングで用いるファクターを増やせればそれだけ実際の指数のリターンに近づけることができますが、一方で各グループの銘柄数は少なくなるため銘柄を取り出しにくく、また、グループの数が増えるとより多くの銘柄を取り出す必要があるため資金も多く必要になります。
個人投資家の観点で考えると、少なくとも完全法よりは可能性がありそうですが、それでもそれなりの資金規模が必要になりそうです。

パッシブ運用手法③ 最適化法

最後の手法は、最適化法になります。これは先ほどの層化抽出法を発展させてより機械的に最適な銘柄とその銘柄のウェイトを決める方法になります。
そもそもパッシブ運用というのは、トラッキングエラーを最小化するという運用になります。トラッキングエラーはポートフォリオのリターンとベンチマークのリターンの差の標準偏差になります。
つまり、ベンチマークリターンから入りが少ないほど良いということになります。
トラッキングエラーの最小化を数式として表すと、以下のようになります。
各銘柄のウェイトを$w_{i}$、各銘柄のベンチマークに対する超過リターンを $r_{i}$とすると
理解しました。「square」はルート(平方根)を意味しているのですね。これを反映した数式を以下に示します。

がやりたいことになります。
最適化を行う際には、銘柄数や、ウエイトの上限や下限、など追加的な制約を加えることも可能です。
今回紹介する中では最も柔軟性の高い方法になります。
この問題を直接解くためには、全ての銘柄間の分散共分散行列を推定する必要があります。しかし一般的に指数構成銘柄は非常に多くの銘柄のため、全ての銘柄の分散共分散行列を推定するには、かなりの計算量が必要になります。
そこで一般的に用いられる手法としては、各銘柄をマルチファクターモデルによってファクターの特徴量を計算し、ファクターの分散共分散行列を使って、最適化を行う方法になります。
この方法は他の手法と比較して比較的少ない資金規模の場合でも実行可能です。しかし、その反面、銘柄のファクター特性は変化しているため、定期的なリバランスが必要になることや、必ずしもファクターモデルによってリターンのすべてが説明できているわけではないので、トラッキングエラーは大きくなるといったデメリットがあります。
資金規模な観点では最も個人投資家でも取り組みやすいものになりますが、各銘柄のファクター特性の計算や、ファクターの分散共分散行列の推定などは、比較的大変なので、手軽にできるものではありません。

個人投資家のパッシブ運用について考える

ここまでパッシブ運用の手法として3つの方法を紹介しました。
やはりパッシブ運用を行うには資金規模が非常に重要になってきます.
最近では最小取引単位も小さくなってきているので、ある程度、個人投資家でも再現できるインデックスを存在するかもしれません。そうは言ってもそれなりに手間がかかるので、一般的な人であれば、その手間を省くための手間だと思って信託報酬を支払って、投資信託やETFを用いる方が効率的な気がします。
インデックス運用は明らかに規模の経済が働くことなので、自分で自家製するよりも、大規模に資金を集めての運用の方が効率的です。
それでも、自分でやってみたいという場合には、やはり最適化法が一番可能性がありそうです。少額から可能で、様々な制約を自分でカスタマイズできるという特徴もあります。(あまりやるともはやパッシブではなく、アクティブですが)
その他、先物を使うという選択肢もあるかもしれません。こちらに関しては、一般的な投資信託のコストが安いか、先物の取引コストやロールコスト、売買の手間を比較して、どちらがよいかということになります。
もう少し具体的に説明すると、例えば S & P に連動するパッシブ運用を行いたい場合を考えます。S & P には先物が存在しており E-mini S & P などがあります。先物は通常ロングサイドとショートサイドどちらも取れるものになりますが、インデックスファンドの複製を考える場合には、対象銘柄の先物をロングします。そして、先物の期日まで保有し続け、限月交代の時には、そのまま先物をロールします。
先物価格は現物の価格を元に決まるので、理論的には、先物の保有によって S & P の保有と同じような効果(リターン)を得ることができます。ただし先物の場合には、特定の期間例えば3ヶ月おきに、限月交代(ロール)というものが必要になるので、取引コストやロールコスト、手間がかかります。
一方でメリットとしては先物の場合は、レバレッジをかけることが容易なので、効率の良い資金運用を行える可能性が残されます。

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