【証券分析7-1】理論株価について考える(配当割引モデル1)

ファイナンス理論

株価を理論的に考えることができるのか?株式投資をやってみたことがある人、あるいはやりたいと思っている人が一度は考えたことがあることではないでしょうか?

今回は、株価モデルの中でも特に有名な配当割引モデル(Dividend Discount Model: DDM)について紹介したいと思います。

配当割引モデルとは?

配当割引モデル(DDM)は、株式の理論価格を推計するための基本的なモデルの一つです。企業活動によって発生するキャッシュフロー(お金の流れ)もうち、配当に着目します。

最もイメージしやすいのは、企業が利益の全額を配当する例でしょう。この場合、企業が毎年行う配当の金額を合計していけば、それが、株式投資におけるリターンであり、すなわち株式価値を評価することになるとイメージできるのではないでしょうか。

ただし、ここで注意すべきは、配当を集計するときには、配当の現在価値に直す必要があるということです。
なぜなら、同じ金額でも1年後にもらうよりも明日もらう方が価値が高いからです。
もし、明日もらえるのであれば、1年間運用したり、貯金したりして、お金を増やすことができます。
ですので、配当は、投資家の要求期待収益率で割り引いてあげる必要があります。

なぜ要求期待収益率で割り引くのか

なぜ、無リスク金利ではなく、要求期待収益率で割り引くのでしょうか。
そのためには、そもそも、この数式がどのように導出されるのか、見ていきましょう。

投資家が株式投資から得られるリターンは値上がり益(キャピタルゲイン)と配当収入(インカムゲイン)から構成されます。
現在の株価 、1年後の株価の期待値 、1年後の1株当たり配当の期待値 とすると、1年間の株式の投資収益率 は次のように表されます。

この式を現在の株価 について解くと次の式が得られます。

ここで、投資収益率 が株主(投資家)の要求収益率 に等しいと仮定すると、次の式となります。

この式は、1年後に得られる配当 と1年後の株価の期待値 をそれぞれ要求収益率 で割り引いた値の合計が現在の株価 になることを示しています。
同様に、1年後の株価 も同じ手法で計算し続けると、
[ここにもう1つ数式がほしい]
になります、これを無限の期間に拡張すると

になります。

この式を使うことで、将来の配当と株主資本コストを予測し、理論株価を推定できます。もしこの理論株価が現在の市場価格を上回っている場合、その株式は割安と判断されできます。

ゼロ成長モデル

配当割引モデルの一般式を使って株式価値を求めるためには、将来のすべての配当を予測する必要がありますが、これは現実的ではありません。そこで、将来の配当が成長せず一定であると仮定するゼロ成長モデルがあります。

モデル

毎期の1株当たり配当の期待値 が一定()であると仮定すると、配当割引モデルの一般式は次のように表されます。

これに無限等比級数の和の公式を適用すると、次のようになります。

無限等比級数の和の公式について簡単に説明しておくと

無限等比級数の一般形は次のようになります。

ここで、
は無限等比級数の和
は初項
は公比(各項が前の項に掛ける一定の数)

この無限等比級数が収束するための条件は です。この条件を満たす場合、無限等比級数の和は次の公式で表されます。

ゼロ成長モデルによる株価評価

例えば、ある企業が毎年100円の配当を永続的に支払うと仮定し、投資家の要求収益率が5%(0.05)である場合、ゼロ成長モデルを使って理論株価を計算すると次のようになります。

この場合、理論株価は2000円となります。現在の株価が1800円であれば、この株式は割安と評価できます。

定率成長モデル

先ほどは配当は成長せずずっと一定としましたが、企業が成長した場合には配当も成長していくと考えることができます。将来の配当も成長すると仮定するモデルが、定率成長モデル(ゴードン・モデル)です。このモデルでは、配当が一定の成長率 で成長していくと仮定します。

モデル

配当割引モデルの一般式は次のように変形できます。

先ほど同様に、無限等比級数の和の公式を適用すると、次のようになります。

ただし、ここで という条件が必要です。これは、要求収益率 より成長率 が大きいと、式の値が無限大に発散してしまうからです。

定率成長モデルによる株価評価

例えば、ある企業が現在の配当を100円とし、将来の配当が毎年3%ずつ成長すると仮定し、投資家の要求収益率が5%(0.05)である場合、定率成長モデルを使って理論株価を計算すると次のようになります。

この場合、理論株価は5000円となります。現在の株価が4500円であれば、この株式は割安と評価できます。

まとめ

配当割引モデルは、将来の配当の現在価値を計算することで株式の理論価格を求める方法です。ゼロ成長モデルや定率成長モデルを用いることで、実際の株式評価を簡略化し、株価の割安割高を判断する材料とすることができます。
とはいえ、これらはかなり単純化した企業の配当を仮定しているので、次の記事ではもう少し複雑な配当の場合を考えてみます。

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