紹介論文
今回紹介する論文はFrom Model to Breach: Towards Actionable LLM-Generated Vulnerabilities
Reportingという論文です。
この論文を一言でまとめると
LLMが生成するコードの脆弱性に着目し、リスクを定量化する「モデル曝露スコア」を解説。セキュリティ対策の現状と課題、具体的な対策までを網羅し、安全なLLM活用を支援します。
LLM時代のセキュリティリスク:コード生成の落とし穴
大規模言語モデル(LLM)は、ソフトウェア開発の現場に革新をもたらし、開発効率を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。しかし、その一方で、LLMが生成するコードには、セキュリティ上の潜在的なリスクが潜んでいることを忘れてはなりません。本章では、LLMがもたらすセキュリティリスクの現状を概観し、開発者と利用者が認識すべき重要なポイントを解説します。
LLMが生成するコードの脆弱性:現状とリスク
LLMは、過去の膨大なコードデータを学習することで、新しいコードを生成します。しかし、学習データには、脆弱性のあるコードや安全でないコーディングパターンも含まれている可能性があります。LLMは、これらの脆弱性を学習し、そのままコードを生成してしまうことがあるのです。具体的には、以下のようなリスクが考えられます。
- クロスサイトスクリプティング(XSS):Webアプリケーションに悪意のあるスクリプトを埋め込む脆弱性
- SQLインジェクション:データベースを不正に操作する脆弱性
- 認証・認可の不備:アクセス制御が適切に行われていない脆弱性
- 機密情報の漏洩:APIキーやパスワードなどの機密情報がコードに埋め込まれるリスク
これらの脆弱性が悪用されると、Webサイトの改ざん、個人情報の漏洩、システムへの不正アクセスなど、深刻な被害につながる可能性があります。
専門家の見解:セキュリティ対策の必要性
セキュリティ専門家は、LLMが生成するコードの脆弱性リスクについて、強い懸念を表明しています。従来のセキュリティ対策に加え、LLM特有のリスクに対応した新たな対策が不可欠であると指摘しています。
開発者が知っておくべきこと
LLMを活用する開発者は、以下の点に注意し、セキュリティ対策を徹底する必要があります。
- LLMが生成したコードは、必ずレビューする。
- 静的解析ツールや動的解析ツールを活用し、脆弱性を検出する。
- LLMのセキュリティに関する最新情報を常に収集し、対策をアップデートする。
- 安全なプロンプト設計を心がけ、脆弱性を誘発する可能性のあるプロンプトを避ける。
まとめ
LLMは開発効率を向上させる強力なツールですが、セキュリティリスクも伴います。開発者と利用者は、LLMの特性を理解し、適切なセキュリティ対策を講じることで、安全なLLM活用を実現する必要があります。
Asleep at the Keyboardベンチマーク:3年間の停滞
LLM(大規模言語モデル)が生成するコードのセキュリティリスクは、現代のソフトウェア開発において無視できない課題です。このリスクを評価するために、様々なベンチマークが開発されていますが、中でも「Asleep at the Keyboard(AATK)」は、LLMのセキュリティレベルを測る上で重要な指標の一つとされています。
AATKベンチマークとは何か?
AATKベンチマークは、GitHub Copilotが生成するコードのセキュリティを評価するために開発されました。このベンチマークでは、脆弱性が混入しやすい様々なシナリオを想定し、LLMが生成したコードに潜むセキュリティ上の欠陥を検出します。
驚くべき停滞:3年間の変化
しかし、驚くべきことに、AATKベンチマークの結果を分析したところ、オープンソースのLLMのセキュリティレベルが、過去3年間ほとんど改善されていないことが明らかになりました。この事実は、LLMの進化が必ずしもセキュリティの向上に繋がっていないことを示唆しており、開発者や利用者にとって深刻な懸念材料となります。
AATKベンチマークでは、LLMが生成したコードの約40%に脆弱性があることが判明しています。この割合は、過去3年間ほとんど変化していません。
なぜ停滞しているのか?
LLMのセキュリティレベルが停滞している原因はいくつか考えられます。
- セキュリティよりも機能性重視: LLMの開発は、セキュリティよりもコードの正確性や生成速度といった機能的な側面に重点が置かれがちです。
- 脆弱性データの不足: LLMの学習データには、脆弱性を含むコードが多数含まれている可能性があります。十分な脆弱性データがない場合、LLMは安全なコーディングパターンを学習することができません。
- セキュリティ評価の遅れ: 新しいLLMがリリースされる際、セキュリティに関する詳細な評価が十分に行われていない場合があります。
停滞を打破するために
この停滞を打破し、LLMのセキュリティレベルを向上させるためには、以下のような取り組みが必要です。
- セキュリティを開発の最優先事項に: LLMの開発者は、セキュリティをコードの正確性や生成速度と同等、あるいはそれ以上に重要な要素として考慮する必要があります。
- 脆弱性データの拡充: LLMの学習に使用する脆弱性データを拡充し、安全なコーディングパターンを学習させる必要があります。
- セキュリティ評価の徹底: 新しいLLMがリリースされる際には、AATKのようなセキュリティベンチマークを用いて、徹底的な評価を行うべきです。
LLMは、ソフトウェア開発の未来を大きく変える可能性を秘めていますが、その恩恵を最大限に享受するためには、セキュリティリスクを真剣に受け止め、対策を講じる必要があります。
モデル曝露(ME)スコア:脆弱性のリスクを定量化する
LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)が生成するコードは、開発効率を飛躍的に向上させる一方で、セキュリティ上のリスクも孕んでいます。特に、脆弱性を含むコードが生成される可能性は、開発者にとって無視できない課題です。そこで、本セクションでは、LLMが生成するコードの脆弱性リスクを包括的に評価するための指標「モデル曝露(ME)スコア」について解説します。
MEスコアとは?
MEスコアとは、LLMが生成するコードの脆弱性リスクを定量化するための指標です。従来の脆弱性評価指標とは異なり、MEスコアは以下の3つの要素を組み合わせてリスクを評価します。
- 脆弱性の深刻度:脆弱性が悪用された場合にシステムに与える影響の大きさ。
- 生成確率:特定のLLMが脆弱性のあるコードを生成する可能性。
- プロンプトの影響:脆弱性のあるコードを生成しやすいプロンプトの特性(プロンプト曝露(PE)スコアを参照)。
MEスコアは、これらの要素を総合的に評価することで、LLMが生成するコードの潜在的なリスクをより正確に把握することを可能にします。
MEスコアの算出方法
MEスコアは、以下の式で算出されます。
ここで、
- Θは、脆弱性を誘発する可能性のあるプロンプトのデータベース
- |Θ|は、データベース内のプロンプト数
- PE(x)は、プロンプトxに対するプロンプト曝露(PE)スコア
- bは、対数の底(例:b=2)
この計算式では、指数関数と対数関数を用いることで、深刻度の高い脆弱性がMEスコアに与える影響を大きくしています。これにより、MEスコアは、単に脆弱性の発生頻度だけでなく、その深刻度を考慮したリスク評価を可能にします。
MEスコアのメリット
MEスコアを活用することで、以下のメリットが得られます。
- リスクの定量化:LLMが生成するコードの脆弱性リスクを数値化し、客観的な評価を可能にします。
- LLMの比較:異なるLLMのセキュリティレベルをMEスコアで比較し、より安全なLLMを選択することができます。
- 対策の優先順位付け:MEスコアの高いLLMやプロンプトに対して、重点的にセキュリティ対策を講じることができます。
- セキュリティ意識の向上:MEスコアの導入は、開発者全体のセキュリティ意識を高めることにつながります。
MEスコアの限界
MEスコアは有用な指標ですが、以下の限界も認識しておく必要があります。
- 評価の偏り:MEスコアの算出には、脆弱性データベースや静的解析ツールの情報が用いられますが、これらの情報には偏りがある可能性があります。
- 複雑な脆弱性の見逃し:MEスコアは、比較的単純な脆弱性を対象としていますが、複雑なロジックに潜む脆弱性を見逃す可能性があります。
- 状況依存性:MEスコアは、LLMの使用状況や環境によって変化する可能性があります。
MEスコアの活用事例
MEスコアは、以下のような場面で活用できます。
- LLMの選定:複数のLLMを比較検討する際に、MEスコアを参考にセキュリティレベルの高いLLMを選択する。
- プロンプトの設計:脆弱性を誘発しやすいプロンプトを特定し、安全なプロンプト設計を行う。
- セキュリティテスト:MEスコアの高いLLMが生成したコードに対して、重点的にセキュリティテストを実施する。
- 継続的な監視:LLMのアップデートや新たな脆弱性の発見に合わせて、MEスコアを定期的に再評価する。
まとめ
MEスコアは、LLMが生成するコードの脆弱性リスクを定量化し、より安全なLLM活用を支援する強力なツールです。MEスコアのメリットと限界を理解した上で、適切に活用することで、LLMの恩恵を最大限に享受しながら、セキュリティリスクを最小限に抑えることが可能になります。次のセクションでは、脆弱性を誘発するプロンプトを特定・評価する「プロンプト曝露(PE)スコア」について解説します。
プロンプト曝露(PE)スコア:脆弱性生成のトリガーを特定する
LLM(大規模言語モデル)が生成するコードのセキュリティリスクを評価する上で、特定のプロンプトが脆弱性を誘発しやすいかどうかを把握することが重要です。そこで登場するのが「プロンプト曝露(PE)スコア」です。PEスコアは、脆弱性を引き起こす可能性のあるプロンプトを特定し、そのリスクレベルを定量的に評価するための指標となります。
PEスコアとは?CVSSとの互換性
PEスコアは、Common Vulnerability Scoring System(CVSS)と互換性を持つ重要度指標であり、以下の要素を考慮して算出されます。
- 脆弱性の根本的な深刻度(CVSSスコア)
- 典型的なコーディングアシスタントLLMの使用における脆弱性生成の可能性
従来の脆弱性評価では、コード自体に存在する脆弱性の深刻度のみが評価されていましたが、PEスコアは、「どのようなプロンプトが、どれくらいの確率で脆弱なコードを生成するのか?」という、より実践的な視点を取り入れています。
類似プロンプトのバリエーションを考慮
PEスコアの大きな特徴は、単一のプロンプトだけでなく、意味的に類似する複数のプロンプト(リフレーズ)を考慮することです。例えば、以下のようなプロンプトは、本質的には同じ指示内容を表していますが、表現が異なります。
- 「Pythonで、ファイルの内容を読み込むコードを書いてください。」
- 「Pythonを使って、ファイルからデータを読み込むプログラムを作成してください。」
- 「Pythonのコードで、ファイルの読み込みを実現するには?」
これらのプロンプトは、LLMの内部処理によっては、異なるセキュリティリスクを持つコードを生成する可能性があります。PEスコアは、このような類似プロンプトのバリエーションを網羅的に評価することで、脆弱性生成の可能性をより正確に把握することを可能にします。
PEスコアの算出方法
PEスコアの算出には、以下の情報が必要です。
- 評価対象のプロンプト
- 類似プロンプトのセット(リフレーズ)
- 各プロンプトに対するLLMのコード生成結果
- 生成されたコードの脆弱性評価結果(CodeQLなどの静的解析ツールを使用)
これらの情報を基に、以下の手順でPEスコアを算出します。
- 類似プロンプトを複数生成する。
- 各プロンプトに対して、LLMにコードを生成させる。
- 生成されたコードを脆弱性評価ツールで分析し、脆弱性の有無を確認する。
- 脆弱性が検出された場合、その深刻度(CVSSスコア)を記録する。
- 各プロンプトにおける脆弱性生成の確率を計算する。
- 脆弱性生成の確率と深刻度を基に、PEスコアを算出する。
PEスコアを活用した安全なプロンプト設計
PEスコアを活用することで、脆弱性を誘発しやすいプロンプトを特定し、改善することができます。例えば、PEスコアの高いプロンプトに対しては、以下のような対策を検討します。
- プロンプトの表現をより明確かつ具体的にする。
- 脆弱性に関するキーワード(例:SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング)を避ける。
- 安全なコーディングパターンを指示する(例:入力値の検証、エスケープ処理)。
PEスコアは、LLMのセキュリティリスクを低減するための強力なツールとなります。PEスコアを活用して、安全なプロンプト設計を心がけましょう。
ケーススタディ:CodeLlamaの脆弱性分析
本セクションでは、「モデル曝露スコア」と「プロンプト曝露スコア」という、私たちが提唱する新たな指標を用いて、Meta社のCodeLlamaというLLMの脆弱性について深掘りします。脆弱性の種類、その深刻度、そして影響範囲を可視化することで、より具体的な対策を検討するための足がかりとします。
CodeLlamaの脆弱性: MEスコアとPEスコアからの分析
論文中で実際にCodeLlamaに対して脆弱性分析を行った結果、特定のプロンプトに対して脆弱なコードを生成しやすい傾向があることが明らかになりました。特に、以下の点が重要です。
- 脆弱性の種類: 生成されやすい脆弱性として、クロスサイトスクリプティング(XSS)やSQLインジェクションといった、Webアプリケーションにおいて頻繁に発生するものが確認されました。
- 脆弱性の深刻度: モデル曝露スコア(MEスコア)が高い脆弱性は、CVSSスコアで評価した場合に高リスクに分類されるものが多く、システム全体に大きな影響を与える可能性があります。
- 影響範囲: 特定のプロンプトだけでなく、類似のプロンプトでも脆弱性が生成される場合があり、広範囲に影響が及ぶ可能性があります。プロンプト曝露スコア(PEスコア)が高いプロンプトは、注意が必要です。
MEスコアとPEスコア:脆弱性分析への応用
MEスコアとPEスコアを組み合わせることで、LLMのセキュリティリスクをより詳細に分析することができます。例えば、MEスコアは低いものの、PEスコアが非常に高いプロンプトが存在する場合、そのプロンプトの使用を避けることで、脆弱性のリスクを大幅に低減できます。
CodeLlamaの脆弱性に対する具体的な対策
CodeLlamaの脆弱性分析の結果を踏まえ、以下のような対策を講じることが重要です。
- 安全なプロンプト設計: 脆弱性を誘発する可能性のあるプロンプトの使用を避け、安全なプロンプト設計を心がける。
- 生成されたコードのレビュー: CodeLlamaが生成したコードは、必ず人間の目でレビューし、脆弱性がないか確認する。
- セキュリティ診断ツールの活用: 静的解析ツールや動的解析ツールを活用して、生成されたコードの脆弱性を検出する。
- 継続的な脆弱性情報の収集: CodeLlamaの脆弱性に関する最新情報を常に収集し、対策をアップデートする。
CodeLlamaの事例から学ぶ:LLMセキュリティの重要性
CodeLlamaの事例は、LLMが生成するコードの脆弱性リスクを理解し、適切な対策を講じることの重要性を示しています。LLMは開発効率を向上させる強力なツールですが、セキュリティリスクを考慮せずに利用すると、大きな損害につながる可能性があります。LLMを利用するすべての開発者は、セキュリティを最優先事項として考慮し、安全なLLM活用を心がける必要があります。
LLM時代のセキュリティ対策:開発者と利用者のための提言
LLM(Large Language Model)を活用した開発が加速する一方で、生成されるコードの脆弱性リスクは無視できません。開発者と利用者は、それぞれの立場でセキュリティ対策を講じ、安全なLLM活用を推進していく必要があります。
開発者向けの提言
- リスクの定量化: モデル曝露(ME)スコアやプロンプト曝露(PE)スコアを活用し、利用するLLMのセキュリティリスクを定量的に評価しましょう。
- 最新情報のキャッチアップ: LLMのセキュリティに関する最新の研究や脆弱性情報を常に収集し、対策をアップデートしましょう。
- コードレビューの徹底: LLMが生成したコードは、必ず人間の目でレビューを行い、潜在的な脆弱性を洗い出しましょう。
- 静的/動的解析ツールの活用: 静的解析ツールや動的解析ツールを導入し、コードの脆弱性を自動的に検出する仕組みを構築しましょう。
- セキュアなプロンプト設計: プロンプトインジェクション攻撃などのリスクを考慮し、安全なプロンプト設計を心がけましょう。
利用者向けの提言
- コードの過信は禁物: LLMが生成したコードを安易に信用せず、セキュリティリスクを常に意識しましょう。
- 専門家のレビュー: 重要なシステムに組み込むLLM生成コードは、必ずセキュリティ専門家のレビューを受けましょう。
- リスクの理解: LLMのセキュリティリスクを十分に理解した上で、利用目的や利用範囲を慎重に検討しましょう。



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